国税通則法「改正」案 納税者に新たな義務!

政府は、国税通則法「改正」案を今国会に提案しました。名称を「国税に係る共通的な手続並びに納税者の権利及び義務に関する法律」に変え、「納税者権利憲章」は国税庁行政文書に格下げするなど納税者に新たな義務を課し、権利を侵害する内容に、「極めて不適切なものと判断」(日本租税理論学会)など反対の声明が出されています。一方、マスコミは危険な中身をほとんど報道せず、中小業者からは「どんな影響があるのか分からない」との疑問も出されています。Q&Aで解説します。


Q1 「納税者権利憲章」制定は、歓迎すべきでは?

 納税者の権利を守る憲章の制定は必要であり、準憲法的なものにすべきです。ところが今回提出された法案(以下、法案)では権利ではなく義務を盛り込んで「憲章」と称し、単なる行政文書として、国税庁長官にその作業を委託しようというのです。財務省・国税庁が長年狙ってきた調査権限を強化するもので、とても権利憲章といえるものではありません。
 税務調査や徴収を執行する国税庁に納税者権利憲章を策定させるのでは、納税者の権利を守るものにはなりません。現に不当な調査・徴収が横行しています。世界の状況を見てもOECD加盟30カ国で、納税者権利憲章がないのは日本だけです(図表1)。世界の憲章も、違法・不当な調査・徴収行政への国民的な批判のたたかいの中から生まれたもので、「権利と義務」を併記している憲章はありません。
 憲法原則を税制・税務行政に貫き、国民主権に貫かれた「納税者権利憲章」の制定が求められています。


Q2 白色申告者にも記帳を義務づけるんですか?

「法案」では、税金を取りやすくするために記帳の義務付けを狙っています。しかし、本来、どういう記帳をするかは個人の自由です。中小業者は、事業を営むために記帳しています。
 そもそも、現在の税法は記帳を義務づけない白色申告を前提にしており、青色申告は例外です。記帳するかしないかはまったく個人の自由に属する問題で、国家が法律で強要することは憲法原則(個人の尊重・13条、財産権の保障・29条など)にも反します。政府は青色申告制度に誘導してきましたが、普及割合は55%です。
 全業者への記帳義務化の狙いは、消費税の簡易課税の縮小や免税点引き下げ、税率アップをいつでも可能にするための措置です。「法案」では、個人の白色申告者の記帳義務化と合わせて、
(1)必要経費を全額認めない概算控除制度を導入する
(2)正しい記帳を行わないものの経費は制限する
(3)記帳水準に合わせて専従者控除を制限する―という罰則規定まで準備しています。


Q3 税務調査の際、帳簿書類等の「提示」や「提出」が義務化されるんですか?

 税務署員が、納税者の承諾なく、自由に帳簿を持ち帰ることが認められれば、調査権が無原則に拡大されます。
 「法案」では、現行の質問・検査に加え「帳簿書類その他の物件(その写しを含む)の『提示』『提出』を求めることができることとする」としています。
 通常の税務調査は任意調査です。現在は、納税者の承諾を得て、必要な資料を預かっていますが、今後は、税務署が必要だと思えば、承諾なしに帳簿等を持ち帰ることが可能になります。税務署員の「質問検査権」は、各個別税法に明記されており「犯罪捜査と解してはならない」と調査権の拡大を戒めています。しかし、帳簿等の「提示」「提出」を法律で明記すれば、令状もないのに、調査に必要のないものまで押収される危険性があります。
 また営業に重大な支障をきたすのは明らかです。例えば医者がカルテまで提出させられることになれば患者のプライバシーも守られません。
 納税者の権利とは無縁のもので、逆に不必要な義務を強要することになります。


Q4 税務調査の際、事前通知を行うようになると聞きましたが

 国民は主権者であり、善良な納税者として尊重されるべきで、事前通知は当然です。
 しかし「法案」では、ただし書きで「正確な事実の把握を困難にするおそれ」「違法もしくは不当な行為」や「適切な遂行に支障を及ぼすおそれ」がある場合は、事前通知を行わないとしています。このただし書きがあれば、事前通知なしの調査が横行することになります。
 日本の申告納税制度は「納税すべき税額が納税者のする申告により確定する」(国税通則法16条)と、自主申告権を明確にしています。
 税務調査はあくまでも例外で任意調査にすぎず、「犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」(所得税法や法人税法など)とされています。現行の税務運営方針でも「事前通知の励行に努め」ると明記しています(図表2)。
 「法案」は「通知内容以外の事項についても調査対象となりうる」としています。反面調査も「調査対象者本人には通知しない」など、課税庁の都合で、際限のない調査ができることを狙っており大問題です。
 全商連のアンケートでも、「事前通知なしの税務調査」は76.6%に上っています。
 例外規定をなくし、無条件で事前通知を行うようにすべきです。


Q5 税務署が修正申告を迫る「勧奨」を法定化するのですか?

修正申告の強要を法律で明記することは課税庁の権限を強化するものです。「法案」は、税務調査が終了し、更正・決定が必要だと認められた場合に「課税庁の職員は修正申告又は期限後申告の勧奨を行うことができる」と法定化しようとしています。
 今でも、納税者が任意に提出する修正申告で、国税の徴収権の時効が5年間であることを悪用。不当に修正申告を迫る例が多発しています。「売上が漏れている。悪質だから7年修正してもらう」と脅されることも少なくありません。
 7年間さかのぼって、更正や決定ができるのは、「偽りその他不正の行為」が認められた場合のみです。「悪質な行為」は、課税庁側が、調査により把握した事実をもって、悪質かどうかの検証と証拠により立証することが必要です。
 修正申告は、納税者の当然の権利です。この権利を税務署の修正申告強要の根拠にする法改正は許せません。
 再調査も可能に
 「法案」はさらに「調査終了通知」を交付した後でも「再調査」できるとしています。諸外国では同一税目、同一年度の「再調査」を法律上禁じているもので、納税者を不安定な立場に置く「再調査」はやめるべきです。税務署の質問・検査権が野放図に拡大される危険なものです。


Q6 すべての処分について理由を付記するようになると聞きましたが?

「法案」では「すべての処分についての理由を付記する」としながら、個人の白色申告者については「記帳・帳簿保存義務の拡大と併せて実施する」としています。
 これまで、課税処分の理由付記は青色申告にのみ実施されていました。申告の仕方によって、理由付記を条件づけることが、そもそも間違いです。しかも所得300万円以下の零細な生業層(約54万人)に記帳義務を課すことは、実務負担の押し付け以外のなにものでもありません。
 記帳を法的に強制し、税務当局の日常的な監視と干渉の口実を与えることは、際限のない調査と推計課税が横行することにつながります。
 「法案」は「記帳・帳簿等の保存が十分でない白色申告者に対して」は、「保存状況に応じて理由を記載する」としています。課税庁の効率性・便宜性だけに配慮した規定は許せません。
 理由付記は、行政処分に対する国民・納税者の権利です。諸外国ではいかなる処分であっても(記帳状態の良し悪しにかかわらず)、理由付記をしない例はありません。無条件で認めるようにすべきです。


Q7 税務署が税額をつり上げる増額更生を5年に延長するんですか?

 税務署が更正できる期間が5年に延びたら、仮装・隠ぺい以外も法律で7年更正が認められることになります。
 現行では、納税者の減額更正請求は1年間しかできませんが、税務署の増額更正は3年間できることになっています。
 ところが、納税者が任意に提出する修正申告は時効完成までの5年間提出できます。この点を悪用して、税務署が「5年も、7年もさかのぼれるぞ」と脅して5年、7年の修正申告を強要する事例が後を絶ちません。
 悪質な仮装・隠ぺい以外は、7年の更正処分はできません。税務署は徴税強化の一環として、納税者が知らないことをいいことに不当な修正を押し付けているのです。そして、修正申告をすると、それは納税者の意思ということになり、不服審査の請求をすることができません。
 納税者の減額更正期間を5年に延ばすことをセットに押し出していますが、右の点からも単純に喜べません。
 税務署が更正できる期間が5年に延びたら、合法的に5年、7年分の更正処分や修正の脅しができることになります。
 まして、消費税は2年前が基準期間となるので、7年の調査が当たり前となってしまいます。


Q8 納税者番号制を導入すると言っていますが?

 税にとどまらず、全国民の個人情報を政府が握る危険があります。
 政府の「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」は、番号の利用範囲を「税プラス社会保障分野」で利用するアメリカ型から出発し、将来的には「幅広い行政分野」で利用するスウェーデン型を検討。11年秋にも法案を提出するとしています。
 政府・民主党の狙いは、税と社会保険料を一体的に徴収する歳入庁構想の実現です。
 09年度末の滞納額は、国税だけでも1兆4955億円あります。これと社会保険関係の滞納に対し、税務署機構を駆使し、一気に徴収強化を図ろうとしているのです。
 納税者番号制の導入は、国民監視を強めプライバシーを侵すものです。また、インボイス(税額表)などが導入されれば、すべての取引に付記し、保存義務を課すなど、中小業者に多大な事務負担を負わせます。
 さらに税と社会保障の共通番号化がされれば、各種税金や国保・社会保険料を滞納した場合、医療サービス等の給付を制限するなど制裁措置を拡大するおそれがあり、憲法の保障する国民の生存権を脅かしかねません。